『超時空要塞マクロス』のキャラクターデザインや作画監督を始め、現在は「マクロスエース」で漫画『超時空要塞マクロス THE FIRST』を連載中の美樹本晴彦氏。イラストを描き始めたきっかけから、マクロスのキャラクターデザインを担当することになった経緯やデジタルイラストに取り組むきっかけなどを「Wacom Live 2010 デジタルイラストフェスタ 2010」のセッションで語った。
まず最初に、アマチュア時代の活動から振り返った。美樹本氏が高校時代にもっとも影響されたアニメ作品として挙げたのは『宇宙戦艦ヤマト』と『機動戦士ガンダム』。「ヤマトから入って、ガンダムで業界入りのきっかけになった感じですね」とその影響の高さを物語った。高校生の頃は学校で知り会った同じ趣味の仲間と共に一緒に行動することが多く、大学1年の時にはそのうちの何人かが集まってガンダムの同人誌を作ってコミケで売ったというエピソードを明かしてくれた。その同人誌は硬いところややわらかいところもある内容で、美樹本氏は女の子のキャラクターを中心にやわらかいところを描いた。当時のコミケは今のような巨大な規模ではなく、売り場から会場を全て見渡せるほどの時の話で、最終的には4種類発売して最後は1,000冊ぐらい売れたという。「ソーラ・レイのアイデアをこの同人誌で書いたのが実際にガンダムで登場するきっかけとなりました。僕らの同人誌はガンダムのスタッフの間でも回されていたのです」と美樹本氏。そう、美樹本氏たちが作ったのは伝説のガンダム同人誌「Gun Sight」シリーズのことだ。
そんな高校のときに出会ったグループの仲間には、現在メカニックデザイナーやアニメ監督として活躍する河森正治氏や漫画家として活躍する細野不二彦氏らがいた。彼らはメカのデザインが好きで『宇宙戦艦ヤマト』のデザインをやっている企画製作スタジオ「スタジオぬえ」に出入りしていた。さらに、河森氏や細野氏はわりと早いうちからプロを目指していて、大学の1年のうちからスタジオぬえで仕事の手伝いをするようになり、美樹本氏も一緒にちょっとずつ仕事に関わらせてもらうようになったという。

これまでの奇跡を語る美樹本晴彦氏
その頃、スタジオぬえがアニメのオリジナル企画を自分のところでやるという話になると、美樹本氏に「キャラクターを描かないか」と依頼があった。「当時はノートのきれっぱしに女の子の顔を描いているような感じで、きちんとキャラクターを描いていませんでした。 “これを機会に練習しろ”と言われたような感じでした」とその当時の心境を振り返った。実際に始めてみると仕事というよりは、1〜2年は練習をしていたような状態だったという。しかし、その後、「マクロス」の企画が決定したときは、キャラクターデザインに抜擢されたのはあまりにも有名だ。キャラクターデザイナーに若手が起用されるのは今も昔も皆無で、作画監督を経験したベテランが手がけるのが一般的。しかし、これほど短期間で抜擢された理由については、「マクロスは“今までのアニメとは違う面子でやりたい”というコンセプトがあった。そのあたりは非常に変わったケースだった」と振り返った。
美樹本氏がマクロスの時代に使用していた画材はコピックが発売される前の油性のマーカーだ。以後は背景だけ水彩で描くようになり、『超時空世紀オーガス』に関わる頃からすべて水彩に切り替えた。水彩の中でガッシュやリキテックスを使ったり、下地塗りに耐水性のカラーインクを使うなど工夫をしたこともあった。
その後、デジタルへの移行については、「CGは興味をもっていたが、踏ん切りがつかない」という状態が続き、しばらく見送っていた。しかし、奥さんが大きなカラーの仕事を引き受けることを理由にPower Mac G3を購入したけれども、まったく稼動していなかった。せっかく買ったのにもったいないと思い、このMacでデジタルへの移行を開始。現在はMac OS 9.2を搭載したPower Mac G4にPhotoshop 4.0とPaintrt 7.0にタブレットは初期の液晶ペンタブレットを使用。ちなみに、美樹本氏が本格的にデジタルに移行できたのは液晶ペンタブレットのおかげで、直接手元を見て描けなければデジタルへの移行は考えにくかったとのことだ。
現在のデジタルのワークフローは主線まではアナログで描いて、着色はデジタルで行う。塗りはPainterで、仕上げはPhotoshopだ。システムやソフトのバージョンが古いが、ポスターの仕事などパーツが多い仕事をしない限りは問題なく、「不自由は感じていない」という。美樹本氏はレイヤーを数枚しか作らない塗り方をするので、処理の負荷が極力抑えられているからであろう。キャラ一体塗るのに「レイヤーを30枚使っています」という話を聞くと「あまりのレイヤーの多さに驚く」と言うほど美樹本氏は数枚のレイヤーで仕上げるとのことだ。
現在、美樹本氏は「マクロスエース」で漫画『超時空要塞マクロス THE FIRST』を連載中。『マクロスエース』の企画はかなり前から『マクロスゼロ』と『マクロス7』を企画したバンダイビジュアルのプロデューサーから提案を受けていたが、美樹本氏は見送ったという。マクロス専門の漫画誌が誕生しても、マクロスのオリジナルのスタッフが執筆者に誰もいないというのはどうなんだろうと考えたからだ。また、すでに漫画雑誌「ガンダムエース」で『機動戦士ガンダム エコール・デュ・シエル』も連載していたので時間的にも困難であったという。しかし、一昨年ぐらいに再度提案されたときはアニメ『マクロスF』が大ヒット。マクロスというのはヒット作品が誕生してもシリーズ全体で連鎖反応が起きにくいが、このヒットを機会に、「過去のマクロス作品に関わった人がなんらかの形で関われる機会が作れるような場になってほしい」「そういう場が作れるのであれば連載も悪くはない」という願いもあって連載も開始を決めたという。
ちなみに、漫画『超時空要塞マクロス THE FIRST』のスタートに合わせて漫画の制作環境をデジタルへ移行した。その結果、アナログの頃はトーンの貼り替えの指示は出せなかったのが、デジタル環境になってからは簡単に張替えができるようになった。「ここはもっと粗くしよう」とか「もっと変えよう」「背景も差し替えよう」とか指示が自由に出せるのはよくなったが、クオリティーを追求しすぎてしまうために作業効率は落ちたという。ちなみに漫画のアシスタントが使用しているのは液晶ペンタブレット「Cintiq 21UX」だ。
「初代マクロススタッフが初代マクロスをどのように描くのか」や「美樹本氏がデジタルツールでどのように表現するのか」など、いろいろな楽しみが豊富の『超時空要塞マクロス THE FIRST』。今後の展開から目が離せそうにない。